10月12日 第21回全日本選手権大会レポート
今年で21年目を迎えたアマチュア修斗の祭典「第21回全日本アマチュア修斗選手権大会」が、本年も小田原アリーナで開催された。
参加者総数は100名(内2名欠場)。全国9地区の選手権大会を勝ち上がった精鋭達が、プロ顔負けの熱戦を繰り広げた。
女子
4年振りに実現した全日本選手権での女子の試合は、檜山美樹子(愛知/名古屋ファイトクラブ)と下牧瀬菜月(山口/Personal Style)の、フライ級のワンマッチ決勝となった。
第1R開始直後から打撃の打ち合いとなり、先ずは檜山が両足タックル。これを下牧瀬が冷静に切る。再びパンチ、キックが交錯する中、今度は下牧瀬が両足タックル。檜山が切ってがぶると、下牧瀬は引き込みハーフからもぐりスイープを狙う。檜山はバランスを取りながら、アームバーで下牧瀬の左腕を延ばしにかかる。下牧瀬は、更にディープハーフに移行するが、空回りする形で檜山が後ろ三角絞めの体勢へ。最後は、檜山が下になりつつも、四角の形から腕を延ばしきり、レフェリーがストップ。
1Rストレートアームバーによる一本勝ちで、檜山が優勝を決めた。
ライトヘビー級
ライトヘビー級は、第1シードの関東王者、中村邦夫(神奈川/ライジングサン)が、2回戦、準決勝共に豪快なパンチと柔道式のテイクダウンで攻め、両試合共フルマークの3-0判定勝ちで順当に決勝進出。逆サイドからは、関西王者の黒田好治(和歌山/創道塾)が、高いレスリング力でこちらも2試合を3-0の判定で勝ち上がり、決勝で関東選手権と関西選手権の覇者同士の対決が実現した。
両者サウスポー。第1R、お互い軽い打撃の牽制から、中村が双差しになりテイクダウン。しかし、黒田もすぐに立ち上がる。首相撲から黒田が膝。離れると、当たらない距離からも黒田が盛んにジャブを出しながら、ロー、ミドル。ジャブで、中村は少しなかに入りずらそう。中村は強烈な左ストレートから組むも倒せず、黒田の膝がローブローとなり一時中断。再開後も、黒田はジャブ、中村は豪快にストレート、フックを振り回す。黒田は、ジャブの連打からロー。中村も強烈なローを返す。ここでゴング。判定は微妙なところ。
第2R、中村がパンチの圧力をかけ、左ロー。黒田の両足タックルを中村切り双差し。黒田はかんぬきからサルトを狙うがすっぽ抜ける。お互い上は取れずにスタンド。黒田はジャブを上下に打ち分け、タックルのフェイントから左右のフックを当てる。更にロー。パンチからの両足タックルは、中村に切られる。ラスト約20秒で中村がパンチの連打。左フックが少し効いたか。ここでゴング。
中村の強烈な打撃の有効打を取るか、黒田の手数、積極性を取るか難しい判定となったが、スプリットの2-1で中村に軍配が上がった。
ミドル級
ミドル級は、第1シードで関東選手権の覇者でありVTJにも出場している奥津和志(茨城/マッハ道場)が2回戦で畠山潤栄(東京/パラエストラ小岩)に敗れる波乱。決勝には、その畠山を準決勝で下した東海王者の遠山と、同じく準決勝で、東北、四国選手権の優勝者を下して勝ち上がった真野桐郎(東京/パラエストラ小岩)をフルマークの判定で下した関西王者の長田拓也(兵庫/MMA修斗ジムBLOWS)が駒を進めた。
長田オーソドックス、遠山サウスポー。第1R、遠山のローで長田がバランスを崩すが、すぐに立ち上がる。長田がタックルから、素早く遠山のバックに回る。遠山の体を伸ばしてチョークを狙う展開。ラウンドの大半がこの形で、そのままゴング。
第2Rも軽い打撃の攻防から四つになり、上手くスタンドでバックに回った長田がテイクダウンしてバック奪取。遠山の体を伸ばして1Rと同様にチョークを狙い続け、終了のゴング。
終始遠山のバックをキープしてコントロールした長田が、3者20-18の3-0で勝利し、優勝を決めた。
フライ級
フライ級は、全11試合中、8試合がKOで決まるという大激戦となった。その中で、若干19歳の水野 稜(神奈川/roots)が一回戦こそベテランの脇山直明(大阪/総補体術)には判定勝ちだったが、2回戦では今年2度の敗北を喫している高倉宏平(埼玉/STF)に目の覚めるような右ストレート一発でKO勝ちすると、続く準決勝も中国王者の老伽正之(岡山/ゼロ戦クラブ)にも右ストレートでKO勝ちし、2連続KO勝利で決勝進出。逆サイドからも樋口将吾(大阪/修斗GYMS直心会)が全く同様に、一回戦こそ判定勝ちだったが2回戦をKO、準決勝も大西浩人(北海道/パラエストラ札幌)をTKOに下して、こちらも2連続KO勝利で決勝に進出した。
迎えた決勝戦。水野オーソドックス、樋口サウスポー。第1R、樋口がフットワークを使いながら時折右フックを仕掛け、浅くヒット。更に樋口がパンチで出ようとするところに水野がショートの右ストレート一閃! このカウンターの一撃で樋口が前のめりに倒れ、1R31秒、衝撃のKO勝ち!
居合抜きのような右ストレートを駆使した水野が、3連続KO勝利でフライ級の覇者となった。
バンタム級
バンタム級は、こちらも若干19歳の関東王者、前山哲平(東京/AACC)が、1、2回戦を接戦に苦しみながらも競り勝ち、準決勝へ。準決勝では中国王者の井原健太(徳島/アンドレイオス)を3-0の判定で下して決勝進出。もう一方のブロックからは、極めを得意とするベテランの谷口友康(大阪/Team Free Style)が、1回戦で北信越王者の鎌田悠介(新潟/ピロクテテス新潟)をスリーパーホールドで下し、その勢いのまま準決勝も関西王者の吉本草彦(兵庫/トリスケリオン柔術アカデミー)を同じくスリーパーホールドで秒殺し、決勝に進出した。
決勝戦、両者共にオーソドックス。第1R、前山がパンチから膝、胴タックルでテイクダウン。そのまま、サイドポジション。1度谷口がガードに戻すが、前山がサイドパスしてバック。ここからサイド、バックにポジションを移しながらコントロールし、ラウンド終了間際に腕ひしぎ十字固めで腕を延ばすと谷口がタップ。
これまでの鬱憤を晴らすような躍動感溢れる動きからの一本勝ちで、前山が優勝を決めた。
フェザー級
フェザー級は、22勝7敗という圧倒的な戦績を誇る関西王者の和田教良(京都/ピーズラボ大阪)が、準決勝で中国王者の石井逸人(広島/総合格闘技道場BURST)を判定3-0で下して決勝進出。逆ブロックからは、関東王者で、四国選手権でも準優勝、東海選手権でも3位入賞している田丸 匠(岐阜/NASCER DO SOL)が、一回戦をフロントスリーパーホールドで一本勝ちすると、準決勝も得意のグラウンドテクニックを駆使し、九州王者の仲曽根武蔵(沖縄/The パラエストラ沖縄)に三角絞めで一本勝ち。決勝に駒を進めた。
決勝戦。両者オーソドックス。第1R、軽い打撃の交錯から田丸のインローがローブローとなり一時中断。再開後、すぐ四つ組からの田丸の膝蹴りが再びローブローに。田丸に減点1。軽い打撃の攻防から、田丸が両足タックルでテイクダウン。和田がコーナーを背にして立ち上がる。田丸の両足タックルを受け止め、双差しから今度は和田がテイクダウン。田丸はクローズに戻して、フロントスリーパーホールド。田丸が締め上げようとしたところでゴング。
第2R、和田が打撃の圧力をかけロー。打撃を嫌った田丸がコーナーに詰まると、和田が胴タックル。四つから外掛けでテイクダウン。田丸は下からラバーガードで作ろうとするが、和田のベースが良く崩れない。和田がトップをキープしたままゴング。
キャリアに勝る和田がそつのない試合運びで3-0判定勝ちし、フェザー級を制した。
ライト級
ライト級は、17歳の現役高校生、中国王者の青井 人(岡山/セコンドアウト)が、準決勝で昨年の関東王者の強豪、岩木 啓(千葉/無所属)にスリーパーホールドで一本勝ちして決勝進出。逆ブロックからは九州王者の結城圭太(福岡/9’s MMA)が、北信越王者を下して勝ち上がった榎本 明(東京/リバーサルジム東京スタンドアウト)を準決勝で下し決勝に上がってきた。
決勝戦。両者オーソドックス。第1R、打撃の探り合いから結城が両足タックル。これに青井が膝を合わせる。一旦離れると青井が飛び膝蹴り。 結城が受け止めてタックルにいくが、青井の腰が重く倒せず、結城が引き込むように下に。クローズドガードから、結城がアームドラックでバックを奪いかけるが、青井が戻してトップキープ。結城の足関節技狙いは青井が反応良く逃げる。青井はハーフ。結城がガードに戻し再度足を狙ったところをエスケープし、結城の頭の方向に回り込みながら青井が腕ひしぎ十字固め。クラッチを切り腕を延ばすと、結城がタップ。
青井が第1R残り11秒で一本勝ちし、全日本アマチュア修斗選手権史上最年少の王者となった。
ウェルター級
ウェルター級は、関東王者の松嶋 朔(神奈川/AACC)が、1回戦でBJJ黒帯の津川浩平(青森/WARP)の寝技の誘いに付き合わず打撃を当てて判定勝ちすると、続く2回戦は、相手の出血によるTKO勝ち。準決勝は、VTJ出場経験のある真嶋一整(山口/毛利道場)をフルマークの判定3-0で下し、決勝に駒を進めた。反対のブロックからは、山田太一(東京/修斗GYM東京)が、一回戦で九州王者の割石晃次(徳島/MMA Zジム)に試合終了間際のスリーパーホールドで一本勝ち。2回戦は3-0判定勝ちすると、準決勝も関西王者の笠岡 晃(大阪/総合格闘技スタジオSTYLE)を判定3-0で下し決勝進出した。
決勝戦。松嶋サウスポー、山田はオーソドックス。第1R、松嶋はガードを下げた伝統派空手の様などっしりとした構え。前蹴りから、松嶋が組みつき首相撲から振って膝の連打。ところどころに、レスリングの投げで崩しを入れ、膝を打つのが上手い。離れて、山田はパンチで攻めるも、また松嶋が首相撲に捕まえて膝。松嶋が脇をすくって豪快に腰投げで投げるが、山田がすぐに立つ。松嶋は低いガードから飛び込んで突きのようなパンチ。山田もパンチを返す。松嶋は膝蹴りやミドルを自分のバランスが崩れるのも構わず思い切りよく打っていく。山田はカウンターのパンチ狙い。松嶋がまたもや首相撲から膝を当てたところでゴング。
第2R、パンチの打ち合いから、松嶋が胴タックルからスタンドでバックに回る。そこからテイクダウン。山田は尻餅を着いたままマットに背を着けず、背をコーナーやロープに寄りかからせて立ち上がる。再びスタンドバックから横に振って松嶋がテイクダウン。松嶋が、レスリングの海老固めの要領で崩しバックから流れでマウント。ボトムロープに山田の頭が引っかかりドントムーブがかかるが、山田が動いてしまいレフリーに口頭注意を受ける。スタンドで再開。松嶋が、低い構えから飛び込んで突きのようなストレート。そこから首相撲に入り、崩して膝の連打。コーナー際で首相撲から松嶋が片足タックル。山田は尻餅は着くが、背をコーナーに預けて立ち上がろうとする。松嶋が山田を立たせず、試合終了。
第1、第2R共、松嶋が離れては空手のような突き、接近しては首相撲とレスリング力で試合をコントロールして、3-0の判定勝ちで優勝を決めた。
大会を終えて
本年も非常にレベルの高いプロ顔負けの攻防が多数見られ、さすが全日本という感であった。各地区選手権の覇者が早々に姿を消す番狂わせの試合も何試合かあり、トーナメントの厳しさを物語っていた。優勝者は、神奈川、東京、京都、岡山、兵庫、愛知と居住地も全国津々浦々であり、まさに全日本といってよい大会であると同時に、全国に修斗が広く普及していることを実感し、深く感銘を受けた。
今年も名勝負が多くどれを推挙するか迷うところだが、大会ベストバウトを一つあげるなら、フライ級2回戦における今大会の覇者、水野 稜(神奈川/roots)と高倉宏平(埼玉/総合格闘技道場STF)の一戦であろうか。高倉は今年、関東選手権を含めた3つのトーナメントで優勝しており、水野は東京オープンと関東選手権の決勝で高倉に敗れ2連敗を喫していた。この日の試合も、相当の緊張と苦手意識があったと思うが、目が覚めるような長いリーチでの伸びる右ストレート一発で倒し、これまでの敗戦を払拭した。あの一戦を制したからこそ、そこからの鮮やかな3連続KO勝利が生まれたように思う。高倉も非常にレベルが高い選手なので、捲土重来を望みたい。
水野は若干19歳。もともとジュニア時代はブラジリアン柔術の試合によく出場しており寝技もできるが、今大会は寝技に行く前の段階で試合を終わらせていた。予備動作がなく真っ直ぐ放たれる居合抜きのような右ストレートは、まさに日本刀のような切れ味で一発で倒す力があり、これからが楽しみな選手だ。
水野の他、個人に目を向けると大激戦区のライト級を制し高校生チャンプとなった青井 人(岡山/セコンドアウト)の活躍が際立っていた。
青井は、若干17歳。躍動感に満ちた若さ溢れるノンストップの攻防で、準決勝、決勝で岩木、結城という優勝候補の2人を連続一本勝ちで下しての優勝は特筆に値するだろう。現役の高校生であり、階級がライト級というところは、イブニングで連載中のアマチュア修斗を舞台とした漫画「オールラウンダー廻」の主人公を彷彿とさせる。
この他、バンタム級を制したレスリング力の高い前山哲平(東京/AACC)、試合のコントロール術に長ける、フェザー級を制した若きベテラン和田教良(京都/ピーズラボ大阪)、空手と首相撲、レスリングの融合したスタイルで個性的なウェルター級優勝の松嶋 朔(神奈川/AACC)、バック奪取とキープが上手いミドル級覇者、長田拓也(兵庫/修斗ジムBLOWS)、ド迫力のパンチを持つライトヘビー級王者の中村邦夫(神奈川/ライジングサン)ら、各階級の優勝者は、プロの舞台でも活躍してくれるだろう。
また、今大会では久しぶりに女子の試合も組まれた。まだまだ男子に比べ普及の行き届かない女子ではあるが、修斗を志す選手が少しでも増えるよう、大会運営側も努力してゆきたい。
若手の躍進とベテランの頑張り
今大会の総評としては、若手の躍進が目を引いた。優勝者の年齢を見てみても、17歳の青井を筆頭に、水野と前山が19歳、長田が20歳、松嶋が21歳。この結果は、修斗の明るい未来を感じさせてくれる。また、ベテランの頑張りも見られた。残念ながら棄権して不出場となってしまったがミドル級にエントリーした49歳の那須選手を皮切りに、47歳の嶋田選手がウェルター級にエントリー、同じくウェルター級、全日本常連の46歳の野田選手は1回戦を勝利した。入賞者には30代の選手も何人も見られた。こうしたベテランが若手としのぎを削り、今大会を盛り上げてくれた。
最後に、本年も全日本に参戦してくれた選手の皆様に、応援に駆けつけてくれた関係者の皆様に、大会運営のスタッフの皆様に、そして全国で修斗を志し、支えてくれる皆様に深く感謝の辞を述べたい。
ありがとうございました。
文=大内 敬(第21回全日本アマチュア修斗選手権大会 実行委員)
©SUSUMU NAGAO